UX STRAT 2013

去る9月10日、11日の2日間、米ジョージア州アトランタにおいて、はじめてのUX戦略(ユーザーエクスペリエンス戦略)についてのカンファレンス、UX STRAT 2013が開催された。

このカンファレンスは、LinkedInのUX Strategy & Planingディスカッショングループでの議論が発端となり開催されたもので、同グループの発起人でもある米Retail UXのUXディレクターであるPaul Bryanが主催を務めている。

UX Strategy and Planning | LinkedIn
http://www.linkedin.com/groups/UX-Strategy-Planning-3735935

上記グループにて議論が盛り上がり、これをテーマに企画されたカンファレンがUX STRATとなる。

初回となる今回は、約200人の参加者が集まり、2日間に渡るシングルトラックのセッションと、その前日に午前と午後に分けられたいくつかのワークショップとで会は構成された。

以下、会のトピック的なセッションを紹介しながら、問題意識と今後の展望を述べる。

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これからの場のデザインについての会話

Facebook上で井庭くん(@takashiiba)に問いかけたら、面白い議論ができたのでここに残しておく:

長谷川 敦士たしかこの間 Takashi Ibaくんがつぶやいていた、クックパッドのユーザー参加アーキテクチャのWikipedia型との違いがずっと気になっている。

Takashi Iba どう思う?

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IAS13を終えて

IA Summit 2013(IAS13)が、米メリーランド州ボルチモアにて開催された。

今年のIASはひとことでいうと、「IAのDisciplineの再確認 Re-confirm the discipline of IA」であった。

昨年までのジャーニーマップ、クロスチャネルなどの「UXデザイン時代のIA」から比べると、テーマとしてはわかりにくいところもあるが、これはIAの新しい時代の始まりともいえる。

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World IA Day 2013 東京 開催

今年も東京でのWorld IA Day(WIADj)が開催されました。

IAAJ | World IA Day 2013 Tokyo
http://iaaj.org/2013/02/02/world-ia-day-2013-tokyo/

Flickr | World IA Day 2013 Group
http://www.flickr.com/groups/wiadj2013/pool/with/8457609409/

今年は、グローバルのテーマが「Exploring and Expanding the Ontologies of IA(IAのオントロジーを探求・拡大する)」。そこで、日本ローカルのテーマとして「集合知」を掲げ、これまでのいわゆる構築的なIAに対して、枠組みから攻めていく、方向性について考えてみようとセッションを集めました。

2012年秋頃に、ローカルコーディネーターとして楽天の坂田君が立ち、彼を中心にしながら、IA Spectrumの浅野さん、ネットイヤーの坂本君、AKQAで活躍中のさとさんなどのメンバーも集まり、プログラムの検討を行いました。

結果としてプログラムでは、そのものずばりの集合知をコンテンツ化していったYahoo!知恵袋を実現させたARGの岡本さん、まさにビッグデータを扱っている当事者としての楽天技術研究所の森さん、これからのIAともいえるレコメンドを軸にした情報提供サービスGunosyの関さん、パターンランゲージを扱っている慶應SFCの井庭さん、といったそうそうたるメンバーにお話しをいただくことになりました。

前半がこれからのIAを担う新しいアプローチの探求、井庭さんのセッションがその方法論、アプローチの探求、という狙いは考えていましたが、今回のWIADj自体ではないですが、この「やわらかいアーキテクチャ」の上で、僕自身もたいへん多くの示唆を得ることができ、またあたらしい課題設定を行うことができたと思っています。

カンファレンス自体、去年に引き続きセッション→パネルという流れを基本フォーマットとしました。これは、スピーカーの人には自由に話してもらいながら、それをIA側のモデレータ(今回は坂本氏と長谷川)がIA側の議論にもっていくという形態です。

自由に聴衆から質疑をとるスタイルもありなのですが、こちらのほうが、カンファレンス全体をひとつの議論として成果にしやすいのではないか、と考えてのデザインです。

そのため、今回は特にパネルについては、リアルタイムドキュメンテーションを実施しました。

会場にいらっしゃった方はご覧になられたと思いますが、スタッフおよび会場のみなさんがリアルタイムでGoogleスプレッドシート上にキーワードを抽出していき、それをスクリーン上のキャンバスにマッピングしていく、というものです。

やってみるとわかるのですが、これはキーワード抽出、記述ともに情報デザインのセンスが問われる作業で、単純作業とはほど遠いものです。

僕自身、はじめてこのリアルタイムドキュメンテーションをやってみたのが、2001年の日本デザイン学会でのシンポジウムでしたが、現在はこだて未来大学の教授の原田泰先生といっしょに四苦八苦しながらやっていました。

今回はカンファレンスのアウトプットとしてもこの成果をきちんと残す予定ですが、このあたりはシステムとして形にしたいと思っています。

さて、パネルの場でも話しましたが、今回の講演者のみなさんは、実はインフォメーションアーキテクトである、というのが裏テーマでもありました。

さきにも述べましたが、これまでのクラシックIAは、サイトの構築という個別の情報媒体の設計であり、これはこれで重要な技術ではありますが、その手法はすでに一般化しつつあります。逆に言えば、すべてのWebサイト構築に関わる人は、事業者であってもエンジニアであっても、もちろんデザイナを名乗る人であればすべて、知っていなければならないスキルとなっています。

たとえて言えばグラフィックデザインに関わる人がタイポグラフィや色彩計画を知っている、くらいの基礎スキルです。

それに対して、今回のスピーカーの方々のトピックは、アクティビティのデザインであったり、レコメンドのしくみであったりと、「構造が生まれうるルールをどう作るか」、という観点にたっています。

最近よく紹介をしている、Andrea ResminiとLuca RosatiによるPervasive Information Architectureで提唱されている、IAのヒューリスティックスは、この「ゆるやかなアーキテクチャ」を実現させるための枠組みともいえます:

1. Place-making —the capability of a pervasive information architecture
model to help users reduce disorientation, build a sense of place, and
increase legibility and way-finding across digital, physical, and crosschannel environments.
2. Consistency—the capability of a pervasive information architecture
model to suit the purposes, the contexts, and the people it is designed
for (internal consistency) and to maintain the same logic along
different media, environments, and times in which it acts (external
consistency).
3. Resilience—the capability of a pervasive information architecture
model to shape and adapt itself to specific users, needs, and seeking
strategies.
4. Reduction—the capability of a pervasive information architecture model
to manage large information sets and minimize the stress and frustration
associated with choosing from an ever-growing set of information sources,
services, and goods.
5. Correlation—the capability of a pervasive information architecture model
to suggest relevant connections among pieces of information, services, and
goods to help users achieve explicit goals or stimulate latent needs.

Andrea Resmini & Luca Rosati / Pervasive IAより

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今回のWIADjを通して、日本でもIAについて、ようやくクラシックIAを越えたこれからの話ができるようになってきたことを実感しました。

このあたりは、今後より明確化していきたいと思いますが、役割としてのIAと成果としてのIAというものは、整理していきたいと思っています。

4 Topics on HCD

昨日はHCD-Netの賛助会員向けイベント「サービスとHCD」。たいへん充実した、示唆深い内容であったので内容を記しておきます。
どうでもいいが、賛助会員向けイベントってタイトルはださいですね。再考します。

このイベントは、毎年HCD-Netが開催している、賛助会員を優先的にご招待するイベントでHCD-Net会員社もしくは、理事等からの推薦により、実際の企業の現場のお話しをうかがう、というある意味HCD-Netのイベントのなかで最も実際的に意義深いイベント。
通常、いろいろな方とお話しをしていても、みなさん事例を知りたいとか、他社の動向を知りたいというお話しが多く、そこに応える会なのですが、なにぶんきちんと広報できていないため、実はちゃんとそのメッセージが届いていないと思っています(イベント名もそうです)。

さて、今回は、これまでご要望も多かった、Webサービス系の企業にお集まりいただきました。
mixi、楽天証券、Naver(LINE)、クウジットと、それぞれ知名度も高い、これからのサービス企業。
実際にお話を伺うと、それぞれのお話しごとに学ぶべきことが多くありました。

まずは、mixiの馬場さんによる、mixi内でのHCD活動の推進について。
お話自体は、mixi内でのHCDプロセスの実施例、およびその反響の声。馬場さんを始めとする社内のスタッフがHCDプロセスをどのように普及させていったかというストーリーとして大変参考になりました。
特に、

・理論(社内研修)+実践(実務の実施)の両輪で理解が深まる、体系的な理解を助ける施策と実務と結びつけるための施策と、両方が必要

という点が今後の企業内でのHCD活動の普及のポイントとなるという指摘が響きました。

次は楽天証券の水田さんによる、これまた奥深い事例のお話し。
単なる(と言っては失礼ですが)楽天証券サイトのUI改善のお話しと思わせて、実はご本人の前職などの経験をふまえて、「一般投資家にとって投資とはなんなのか、証券会社の提供すべき価値はなんなのか」を考察する、というサービスデザインの文脈のお話しでした。

・これまでの投資=エージェントが運用を面倒見てくれるので自分は判断のみが必要
・オンライン投資=自分で探索、理解からしなければならない

と箇条書きにしてしまうと単純化されてしまいますが、この裏側に潜む期待価値はオンライン証券のみならず、今後のWebサービス全体に適用できる枠組みと感じました。

もちろん、UI改善のお話しも、

・大きな改修はユーザーの負担となり、クレームも増える
・ユーザーが新しいUIに習熟するまで半年はかかる
・移行措置として短期的なユーザビリティを下げたとしても、UIの共存を実施

という、現在のWebサービス事業者が抱える共通の課題に対してのひとつの示唆を示していただきました。

僕自身も、IA Summit等でAmazonのUI移行のステップのケーススタディなどを聞いていて、うちのコンセントでも企業サイトリニューアルの際に、基本的にはフルリニューアルせずにマイナー改修を繰り返す、というプロジェクト方針をとっていますが、「共存」というのはサービス事業としてのひとつのリアリティと感じました。

3人目はいまをときめくLINEについて、Naverの本田さん。
Naver(NHN)は以前からUTルームの充実など、UX改善には力を入れられていますが、今回のお話しでは、まず、オンラインサービス開発の考え方とHCDプロセスとの齟齬のお話しから始まりました。
具体的には以下の2点が既存のHCDプロセスが合わないところ:

・Deploy(リリース)前後の区別が曖昧
LINEはマイナー改修(平均4週に一度のリリース)とリニューアルもわかれている
・日常的な利用状況把握と深い利用状況把握を区別したい
リニューアルのためには深い調査が別途走る

このため、Naverでは、HCDプロセスを独自にカスタマイズした、開発ライフサイクルプロセスを定義しています。

コンセントは基本的にはエージェンシーなので、プロジェクトにかかわる際には上記で言うところのリニューアルの大型案件に関わることが多いのですが、HCDの本質は実はマイナー改修の室にあるということもあり、自分達のプロジェクトプランをちょっと考え直してみようかと思っています。

最後はクウジットの末吉さん。
前の三方がサービス事業者なのに対して、技術ソリューション提供の会社ですが、QRや位置情報など、これからのUXを支える技術を提供している会社ですので、特にそのユーザーへの提供のさせかたに興味を持ちました。
クウジットでは、いつも「技術をそのまま提供したのではユーザーに理解されない/利用のインセンティブを感じてもらえない」という課題を持っていらっしゃるとのことで、そのためユーザーの目線に合わせたメタファーやベネフィット提示をどうするか、に尽力されているとのこと。
まさに、この「技術のユーザー目線への変換」がHCDアプローチの中でのビジョニングやデザインのフェーズで求められることであり、ここを越えていない解決案しか出せないと単なるユーザビリティエンジニアリングの域にとどまってしまいます。

その意味でこれも新しいHCD/UXDのフレームワークを意識させるようなセッションでした。

幸い明日は奥沢UXクリスマス会というものがあるので、その場でUXプリンスにも意見を聞いてみようと思います。