UX」カテゴリーアーカイブ

音楽サブスク比較メモ_2020

最近10年ぶりに家のメインのアンプ(AVアンプ)を買い換えた。そしたらSpotifyネイティブ対応だったり、Amazon Music HD対応だったり、Dolby Atmos対応だったりといろいろバージョンアップできたのでこの段階でのメモ。全部書くと長くなるので、今回は主に音楽試聴の利用者体験観点。

ちなみに筆者の聴く音楽は主としてロック〜エレクトロニカな感じといえばよいかな。フェイバリットはUKシューゲイザー my bloody valentine。

導入前環境

リビングではAVアンプ(Marantz SR6015) – スピーカー(JBL 4428)に対して、AirMac ExpressというApple製WiFiルーターをAirPlay受信機として使用(ルーターとしては使わず)。有線LAN(1000Base-T直結)、光出力でAVアンプに接続。これに、MacやiPhoneからAirPlayで飛ばして音楽を鳴らしていた。

AirPlayとしてネットワーク転送される際にどっちみちある程度ダウンサンプリングされるので、ハイレゾの必然はそこまで感じず、むしろ利用端末の利便性で考えていた。その意味でiPhoneのMusicとSpotifyが利用頻度が高かった。たまにMac iTunesからの再生もやっていたが、Macをおいている部屋がリビングと別なので頻度は低い。

利便の観点でいうとSpotifyとApple Musicはどっこいどっこい。なんとなくSpotifyのほうがさくさく動く感はあるのとおすすめされるプレイリストが気が利いている感じがするのがメリットだが、プレイリスト(再生リスト)のどの曲がたまっているのか、が直感的にわからずいつも困る。

あと、個人的にSpotifyの致命的な点は、2020年現在なぜか配信をやめてしまっているmy bloody valentineの音源を聞けないこと。Appleのほうはかつてリッピングした音源があるのでそちらを聞ける。

Apple Musicはいいのだが、自分で買ったりリッピングした「ライブラリ」とサブスクの「Apple Music」との混在がやはり日常利用においては思ったよりまぎらわしくなる。

逆に仕事部屋は、Macに音楽制作用のMOTU M2(オーディオインターフェイス)、IK Mutimedia iLoud Micro Monitor(パワードモニター)を常設しているので、鳴らすとしたらそれに直接。もしくは気分に応じてヘッドフォン使い分け(リスニングではゼンハイザー HD25もしくはGRADO SR80)。

新AVアンプ導入後

新しいAVアンプを買ったらAirPlay 2、Spotify、Amazon Music HDに標準対応していた(それあるから買ったのもあるが)。

で、SpotifyはSpotify Connectという、コントローラーと再生機器とを別途で管理する概念があり、これが利用上はベストであることがわかった。

これでいったんの結論、以下は長い余談となる。

Spotify Connectとは、イメージ的にはAVアンプ内にSpotify再生専用端末が入っていて、それを手元のiPhoneなりMacなりからコントロールする、というもの。AVアンプを使わずともMacをiPhoneからコントロールしたり、逆にiPhoneの再生をMacからコントロールしたりもできるのだが、通常再生機器と操作機器はいっしょで問題ないのであまり使われないと思う(僕はあまり使っていなかった)。

これが今回のように再生機器が据え置きだと威力を発揮する。手元ではなれたインターフェイスで操作しつつ、再生は任意の機器でできる。なにより、据え置き機はこちらも有線LAN接続でSpotify最高音質は担保できているので、手元のiPhoneではデータのことは考えなくてもよいというのも正しい。

このあたりオブジェクト指向でアーキテクチャを考える意義としても使えそうである。

で、音質でいうと、話がややこしくなるが、Amazon Music HDがここで登場する。Spotify、Apple Musicはもともとモバイル再生を前提にしているのでロッシー音源(非可逆圧縮)音源で、その音質には限界がある。そこにロスレス音源であるApple Music HDという選択肢があらわれた。ロスレスは可逆圧縮なので音源データに損失がないということになる。かつ、音源によってCD(44.1kHz/16bit)より高音質なもの_も_ある。

いままではAirPlay(これは可逆圧縮なのだがCD音質にダウンサンプリングされる)を通していたので、そこまで気にしていなかったのだが、96kHz/24bit音源とかが再生できるとなるととたんに欲が出てしまう。

Amazon MusicはHDとUltra HDという音源があり、HDがCD相当、Ultra HDが「それ以上」。

ということで、急遽Amazon Music HDにも試しに契約してみて再生をためす。この接続においては、筆者がAmazonの各国のアカウントを持っていて使い分けていることもあって、当初アプリからUSのAmazon Musicにつながってしまい、なかなかアクティベートすらできなかったトラブルもあったがそれは置いておいて、なんとかいまは使えている。

で、マランツはDENONと同じHEOSという汎用音楽アプリAPIを持っていて、そこ経由でさまざまなサブスクなどとつなぐことができる(Sound Cloundにもつながる)のだが、逆にAmazon MusicにもこのHEOSからつないで再生することになる(Amazon MusicアプリからつなぐとUltra HD音源でもHD再生となってしまう)。

が、このHEOSアプリからの操作がまったくいけてない。表現が難しいが、ライブラリの概念がなく、個別のアルバム単位で再生を指示しなければならない、という感じか。LPを選んでターンテーブルに乗せる感覚に近い。LPだったら趣があっていいんだけどね(なのでMBVはLPで聴くことも多い←だったら冒頭のSpotify云々いらないじゃん)。

ちなみにここでまた余談だが、Spotify/Apple Musicがロッシーじゃんに気づかされたので、急遽アンプにはCDプレイヤーもつないでいる。2020年になってまさかのCD復活。1,000枚くらいのCDは倉庫か廃棄かと段ボールに移されていたのだが、500枚くらいは棚に戻りそう。

Amazon Musicにもどると、HEOSの使いにくいUIを乗り越えるとようやくUltra HD音源を聴くことができる。ちなにみ筆者の日常的なリスニング対象でUltra HD対応を発見したのは、クラムボン(96kHz/24bit)、Radiohead(96kHz/24bit)、長谷川白紙(44.1kHz/24bit)、NUMBER GIRL(48kHz/24bit)、やくしまるえつこ(24bit/96kHz)あたり。いや、正直Ultra HD縛りで聴きたいわけではまったくないのだが、それでもぽつぽつしかない、というのが正直なところ。

そして肝心の音質はどうか。ナンバガでサンプリングレートの違いを感じるのもなかなかたいへんだと思うので、透明度の高いRadioheadの後期や長谷川白紙で聴きくらべをしてみたところ正直残念ながらそこまでわからん・・・耳に自信を失う。

やけになってMDR-7506やMDR-EX800STとかモニターヘッドフォンを引っ張り出してきてもいまいちピンとこない。

最終的に、ネットの記事で違いが明白ってのを見つけてふだんはあまり聴かないノラ・ジョーンズ/Sunriseって曲をためてしてみたところ、ようやくメインスピーカーにて違いを感じられた。ロッシー音源と比べるたとき、HD音源はボーカルの定位が気持ち悪いくらい際立つ。立体感が出る感じ。しかし、同じ音源をiLoudのほうや、ヘッドフォンで試してもそこまでわからん(もともとモニターヘッドフォンは立体感には乏しいと言われるが)。これはひょっとしたらメインに使っているスピーカーJBL 4428のホーン型ツイーター(要はラッパみたいなものん)によって定位感がよりシビアになっていてそれでようやく違いを顕著に感じられたということかもしれない。

そして、個人的に音楽は聴くのも好きだが自分で作る側でもあるのだが、ざらついてる音源も好みだし、クリアな音も好みだし、なんなら別バージョンとして聴けてしまう。つまり違いがあったとしてもそれがそのまま善し悪しには考えていないということなのだろう。のっぺり/立体については、そもそもクリアなライブ音源というより、自分のとってきた音をあれこれ定位もいじりながら作っていくので、ライブ感あふれる、という感覚をそういえば忘れていた。

いずれにせよ、違いがわかったので一安心ではある。

Service Design Global Conference 2018 #sdgc18

SDGC18 at Dublin

今年もService Design Network(SDN)が主催する、サービスデザインに関する国際会議Service Design Global Conference(SDGC)が開催された。今年は去年のスペインマドリードに続いて引き続き欧州にてアイルランドのダブリンという渋いチョイス。

この選定にはサービスデザインの自治体への導入において有名なアイルランド第二の都市コーク市が影響している。今回の筆頭スポンサーにもこのコーク州(Cork Conty)とコーク市でのサービスデザイン組織Service rePublicが名を連ねている。

コーク市はダブリン(人口120万人)に対して人口12万人と規模は1/10であるが、Service rePublicの設立や、ロンドンに拠点をかまえるデザインエージェンシーSnookによるプロジェクトなど、サービスデザインの実践に積極的な自治体として知られている。今回も、この Service rePublic設置の流れや、コーク州側の受け入れ態勢などをライトニングトークやパネルディスカッションを通じて知ることができた。興味深かったのは、現実としては市のスタッフは最初から乗り気ではなく、そういったなかでプロジェクトの推進に巻き込む人々を探しながら進めていったという経緯の部分であったが、今後のコンセントやムサビ Institute of Innovationなどでのプロジェクト推進の際の参考になった。

また、ダブリン自体もFacebook、Googleなどの北米企業の欧州中東HQが置かれている都市でもある。SDGCでもやはりダブリンに拠点を置くFacebookのデザインラボであるTTC Lab(Trust Transparency Control Lab)からのプレゼンテーションも行われていた。ダブリンのこの状況はアイルランドの税制によるところが大きいものであるので、Brexitによって今後どうなるかは興味深い。

個人的にはアイルランド、そしてダブリンといえばやはりギネスとパブ飯、そしてジェームス・ジョイス、ということでしっかり本場のシェパーズパイ(これがギネスに合うのです)を堪能し、ミーハーにユリシーズに登場するパブ Davy Byrnesでマスタード入りゴルゴンゾーラサンドイッチをいただいてきました。

続きを読む

UX STRAT USA 2018参加

UX STRAT USA 2018 | Day 1

さて、日本は3連休開け、実はコンセントは有給取得推奨日で4連休目の火曜ですが、日曜から北米東海岸のプロヴィデンスにUX STRAT参加のために訪れています。UX STRATは発足当初から参加していましたが、ここ数年会社のメンバーに行ってもらったりしていて僕は久々の参加です。プロジェクトのインサイトを得るために来ていますが、やはりこういったケーススタディが充実しているカンファレンスは、実際のプロジェクトの息遣いや間合いがわかって面白いですね。話してるケースの内容よりも、話し方や重視するポイントのバランスが参考になります。

初日は、MIT Design LabのYihyun Limによるキーノートに始まり、Instagramライブストリーム開発、Targetのユーザー向けアプリの統合など、既存ブランドの価値を残しながら新しい機能をいかに生み出すかという視点でのケーススタディが展開されました。話法的なところでいうと、既存機能の改修の話をするなかで、既存ユーザーを大事にする、言いながらもいわゆる「既存分ランドを大事にして」というような「ブランドを守る」的な話はなく、強いて言えば既存ユーザーの利便を失わないようにする、ということにケアするというスタンスが印象的でした。これは前提として、既存ブランドというものはもともと定義されたバリュープロポジションに基づいているものであって、そこからブレていなければブランド戦略的には問題ない、という価値観が前提としてあることが大きな理由であると思います。このあたり、バリュープロポジションが定義されていないゆえに表面的に前例踏襲を余儀なくされることが多い日本とブランドの考え方が根本的に異なっていることを感じました。そんな話はこちらでは前提すぎて言及はされないわけですが。

また、先々週(!)に参加したIntersectionでは自律的な組織への言及が多かったわけですが、今回のUX STRATでは、ペルソナがわりにJobs to be Done(JTBD)を用いるという話が圧倒的に多かったのが印象的でした。これはメインのトピックによらずに事例のなかでのリサーチメソッドでよくみられていたのでUSでのUXリサーチのなかでの流行なのかもしれません。たしかにビジネス側の人とのコミュニケーションにはこちらのほうが通じやすいかもしれないです。

午後のセッションでは若干ゆるい話が続きましたが、UX STRATの名物スピーカーRonnie Battistaによる、ティモシーリアリーの言葉をもじった「Turn off, Tune out, Dro in」というセッションはなかなか示唆深かったです。今回のセッションでも何人かが言及していたMIT Media LabのCalm Technologyにも通じる話ですが、テクノロジーの呪縛や今生まれているSNSによる精神的ストレスを、自身の経験に注目することで解き放つというストーリーで、大きなUX Strategyを考える上での視座を得ることが出来る象徴的な話でした。

UX STRAT USA 2018 | DAY 2

昨日に引き続きUX戦略の国際会議、UX STRAT2日目の所感です。昨日もInstagramの実プロダクトの開発の話が聞けましたが、本日もGoogleの社内でのUX評価のしくみのプレゼンテーションや、Google、Facebook、AmazonのUXマネージャーによるパネルなど、かなりいまもっともUXに力を入れている企業たちの生の話が聞けるのがこのカンファレンスの特徴です。

さて、今回のUX STRATはテーマが3つにわかれていて、以下のようになっています。

  • Transformation Outward (外への変革)
  • Transformation Inward (中への変革)
  • Transformation Forward (未来への変革)

初日の昨日は、Outward、つまり実際のプロダクトやサービスの変革が扱われ、本日はInward、つまり組織の変革とForward、新しい技術についての話となります。組織の話としては、冒頭にGoogleにおけるUXの企業内部へのインパクトの示し方、というテーマでYouTubeのUXリサーチマネージャーのCatalina Naranjo-Bockによるプレゼンテーションがもたれました。ここでは、社内でUXのインパクトを示すためにどういった活動を可視化すべきか、アピールすべきタイミングはどういったものかといったものを次々と紹介していきました。かなーり地道な活動ではありますが、それを構造化したシートを作り部内で徹底することできちんと評価が得られるようになるという意味で多くの組織で取り入れるべき活動であるといえます。そして、保険大手のNationawide社の全社を顧客志向にするリブランディング活動の事例紹介に続いて、Amazon、Facebook、GoogleのそれぞれUXマネージャーによるパネルディスカッションが行われました。ここでは各社のアプローチのトレンドやコミュニケーション上の課題などが紹介されました。話は逐次的にどんどん進んでいったのでいろいろなトピックが入り乱れましたが、面白かったトピックとしては各社ともリサーチ素材としてのビデオ利用が一般的であること、先日参加した別のカンファレンスであるIntersection18でも話題によく出ていた分散型の組織形態を目指していること、そして調査結果が広く社内で活用されるようになってきている現状を踏まえ、調査および結果の透明性の担保に努めているというあたりは参考になりました。

午後のセッションではIBMから連続して2セッション、AIとデザインの話がなされましたが、IBMということでWatson利用が前提になることもあり、具体的にUXをどのようにAIで変えていくかというものより、AIテクノロジーをとりいれるための組織のありかた、デザインにAIを取り込む際の倫理(Ethics)の視点が提示されました。特にAIを取り入れた際の倫理の課題は自動化によってこれまでよりさまざまな最適化やカスタマいぜーションが_効きすぎてしまう_ことが起こりうる状況であり、日本でも独自にも視点を持つ必要があります。

そして最期のセッションではインテルのDr. Faith McCrearyによるFraming the Future (未来をかたち作る)と題されたセッションが行われました。そこでは、未来の構築のために必要な論点として、Holistic Framing、Collaborative + Participartly、 North Stars、Accesible、Digital Intensityという視点が提示されました。このなかで、技術の発達進化によって、Human + Interfaceの時代にはUIが重要となり、プロダクトとサービスが統合された時代にはEnd to Endの体験が重視され、そしてこれからSystems of Systemsの時代ではExperience Transformationが求められるというビジョンが提示されました。これは僕の量子力学的デザイン観とも通じる視点であり、個人的にも深めていきたい論点です。

ということで、2日にわたってUX STRATに参加してきましたが、発足当初に比べてプログラムコミッティーも設立され、なによりプログラムもかなり練られたものになっている印象を受けました。特にGAFA(Appleはいないけど)の中のUX戦略の話を直接聞けるのはいいですね。大規模な商業的カンファレンスとは異なったコンパクトなものではありますが、UX戦略の今をキャッチアップするためには日本から参加する意義はあると感じます。

Apple Watchファーストインプレッション

Apple Watchを購入観点でじっくり見てみたら、ぐっときたのは無印ではあるものの13万円もするリンクブレスレットモデルではないか。さすがにちょっと、と躊躇して、会社で試験機として買った無印38mmスポーツバンドモデルでGW中に試用。以下ファーストインプレッション。

(上野学さんからご指摘いただき一部修正しました)

続きを読む

IA Summit 2015

情報アーキテクチャ(Information Architecture: IA)についての年に一度の会議 IA Summitが、ミネソタ州ミネアポリスにて開催された(IAS15と呼ばれている)。本年度のトピック、傾向などについて紹介しよう。

続きを読む

UX STRAT 2014

コロラド州ボルダーにて、去る9月8日、9日にユーザーエクスペリエンス戦略(UX戦略)に関する国際会議、UX STRAT 2014が開催された。昨年の第1回に引き続き、今年が2回目の開催となる。

この会議は、米国でコンサルタント/講師をしている、Paul Bryan氏が、LinkedInのUX Strategy and Planningというグループを立ち上げ、そこでの議論をもとに主催したカンファレンス。通常こういったカンファレンスは特定の話題に対して学会や団体、もしくはセミナー会社などが会を主催することが多く、このように個人が主催するというケースは珍しいのではないかと思う。

この会議は250名程度の参加者、シングルトラック(=すべてのプレゼンテーションを全員が聴講する)というポリシーを持っており、2日にわたって計18本のプレゼンテーションを聞くことができた。

参加者、スピーカーは、私の主領域であるIA(情報アーキテクチャ)分野でも活躍している人々や、デザイン教育分野、イノベーションに関してのオピニオンリーダーなどさまざま。すべての人が「UX戦略」というトピックに基づいたケーススタディ、新しいフレームワークの提示などを行った。このスタイルは去年と同じ。

明示的な「テーマ」が用意されていないため、逆に各スピーカーの語りのなかから共通点や意識の相違を読み取ることができる。昨年はそういう意味では「Strategy for UXD, or UX for Strategy」というのがひとつ通奏低音のように感じられるテーマであった。

今年は、そういった意味で、「組織デザイン」と「プロダクトマネージャ」がテーマとして感じられた。以下、それぞれにトピックごとにカンファレンスの内容を紹介しながら所感を記す:

組織デザイン

Adaptive Pathのファウンダーとしても知られるPeter Melholzは、つい先日まで在席していたGroupon社での組織改革についての話を行った(現在は某大手サービス事業者においてプロジェクトを推進しているとのこと)。そこでは、従来の「デザイン」「開発」といった機能別の組織形態から、全ての機能を持ったプロジェクト単位に編成された組織形態への移行が行われていた。「decenteralize(脱中心化)」がキーワードとして挙げられ、移行による効果が示された。

この話は、先日Service Design Network(SDN) Japan Chapterが主催したイベント「Service Design initiative Vol.2」において、奇しくもGrouponの競合となるポンパレを日本で立ち上げたリクルート社が紹介した、各事業部にUX部門を置くアプローチとも共通する(これについては別途紹介する)。

立ち上げフェーズのスタートアップでは、LeanUX手法をとって、ミニマムなビジネスオーナー、UXデザイナ、テクニカルディレクター(デベロッパー)の3人編成で組織を構成することがだいぶ普及してきているが、サービス拡大期にあるビジネスにおいても、この傾向が見られることは大変興味深い。

組織自体のデザインとはちょっと離れるが、ContinumのBrian Gillespieは、既存組織の中でビジネス戦略にデザイン戦略を盛り込むための考え方を示していた。彼は、「共感」と「情報の集約」の二つのアプローチがビジネスにおいてデザインを効果的に活かすためには重要と述べた。「共感」は、デザイン分析を具体的に行い、デザインを感性的なブラックボックスから論理的な問題解決手段であることを認知してもらい、デザイン部門以外からも正しく内容を理解してもらうことを表している。この結果として、デザインを事業に活用する「戦略的デザイン」が実現できる、としている。また、「情報の集約」は主としてカスタマージャーニーマップ(CJM)やペルソナなどの情報の視覚化によって、膨大な調査データや、さまざまなプランを図版などに「集約」し、それによって多くのステイクホルダー間でのコミュニケーションを円滑にすることをができるとしている。

ここで興味深いのは、デザイン戦略を実現するための障害を、異部署の誰かを説得するという「人」を想定したものではなく、ビジネスプロセスにおける意志決定の材料にいかにするか、という点に置いていることである。Harvar Business Reviewなどでもデザイン思考やUXについては数多く取り上げられており、UX戦略はすでに啓蒙フェーズから活用フェーズに入ったということを伺うことができる。

このことは、組織形態がグッズ・ドミナント・ロジック(G-D Logic)型からサービス・ドミナント・ロジック(S-D Logic)型へ移行している現象としてもとらえることができ、サービスデザイン分野の研究としても分析する価値がある。

UX戦略における組織形態および組織内コミュニケーションのトピックは、多くのスピーカーが触れるものとなり、UX戦略が単なる「UX部門がどうにかすること」の範疇を超えたことになっている状況を強く感じさせた。

そして、このことをより具体的に感じさせたのは、IBMのTedd Wilkens、Jon Kolkoなどが言及していた、プロダクトマネージャーの役割としてのUX戦略」である。

プロダクトマネージャーの責任

黎明期のIA業界では、Peter Melholzの元でも働いていたというIBMのTedd Wilkensは、UXと事業戦略とを活かすために「UX戦略」という分野を明示しない、という逆説的な講演を行った。これはUX戦略が重要ではない、ということではない。むしろ企業において中心的な役割を担うことになったことによって、一種機能的な表現であるUX戦略という言い方で領域を限定させず、商品戦略(Product Strategy)の一部としてUX戦略やデザイン戦略を位置づけるということを意味する。

この結果として、IBMにおいてUX戦略を担ってきていたIBM Designは、いまやプロダクトマネジメントの責任を担っているという。同様にデザイン思考(Design Thinking)も、最終製品(Delivery)のためのものではなく、IBM Design Thinking Frameworkという形で全社的な活動として実施されているという。具体的には、IBM Designcampという啓蒙ワークショップをエグゼクティブ向け、プロダクトチーム向け、プロダクトマネージャー向け、中途採用者(新人)向けと形で定期的に実施し、全社的にデザイン思考のアプローチおよびUX戦略を理解してもらおうとしているという。

経営層も含めた企業活動の基盤としてUX戦略、デザイン戦略を置いていることも興味深いが、特にUX戦略を商品戦略に含まれるものとして位置づけて、プロダクトマネージャー(商品責任者)の再定義を行っていることが象徴的であると感じた。

このことは、ACM SIGCHIの機関誌interactionsの編集長を務めたことでも知られるJon Kolkoのプレゼンテーションからも伺うことができた。彼のプレゼンテーション「優れた製品はどこから来るのか」においては、製品ビジョンや開発プロセスの重要性を述べた上で、製品開発全体の問題、つまり責任者であるプロダクトマネージャーが担うべき問題であることを示した。

「UX戦略」とは、突き詰めれば、ターゲットの設定、ゴール・提供価値の設定、そしてどうやってそれを実現するか、という要素に帰着させることができる。通常の商品開発においても、いわゆる5W1Hをスタートにしながら考えていくということは基本であり、そういった意味ではこのことは特に目新しいことをいっているわけではない。しかしながら、これまで一つの専門領域としてとらえられてきたUXやHCDという概念が一般的な製品開発のいち要素まで普遍化されたということは感慨深くもあり、これからの時代においてのUX専門家がより責任ある、重要な役割を担わねばならないことを感じさせる。これからの時代においては、UXに精通しているということが求められるのではなく、その専門能力を活かしてよりより製品やサービスを世に送り出せるか、ということまでが求められるということである。

組織デザイン、プロダクトマネージャーについてプレゼンテーションの内容を紹介しながら所感を述べてきたが、共通して言えることはすでにUXの問題は観察や分析、設計といった個別の手法の問題意識ではなく、組織や企業のなかにいかに統合していくのか、活かしていくのかという問題へと移行しているということである。

先日のHCD-Netサロン「UXと組織デザイン」において、BEENOSの山本氏が述べていた、「UX担当者はUXデザイナのキャリアではない」ということにもつながるが、すでにUX戦略はUXデザイナの職能、という問題ではなく、組織において製品開発担当者が担うべき役割という位置づけに変わっていると言えるのである。

UX業界のトレンド

このカンファレンスでは、UX業界のキーパーソンが集まっていることもあり、話される内容からUX業界のトレンドを読みとることができる。いくつかトピックを紹介しよう。
サービスデザインの一般化
サービスデザインはすでに一般化しており、UX戦略と同じように普通に名詞として使われていた。ここでは、Kerry Bodineの定義がスタンダードになっているようだ。
エコシステムデザイン
聞き慣れない新しい用語として、エコシステムデザイン/エコシステムデザイナーという言葉が用いられていた。解釈はまだ広いようだが、サービスデザインの文脈でいうと、個別サービスだけでなく、それをとりまく環境や、ステイクホルダー全体までを設計するという意味となる。また、より狭い解釈として複数デバイスを横断したプラニングを行うことを指しているケースもみられた。
LeanUXの普及
UXデザインの実施においては、Agileと同様にLeanUXも一派化している。多くの発表者のプレゼンテーションのなかで言及がみられた。
UXデザイン手法の普及
CJM、メンタルモデルなどのUXデザイン、サービスデザインの手法は普及しており、それらを組み合わせた活用がトピックとなっている。
おそるおそるUX戦略を扱っていた昨年の第1回に対し、全ての参加者がUX戦略の重要性を確信し、議論に参加していた今回。

主催のボードメンバーとも話をしたが、来年度の次回もこの250人規模、シングルトラックという形態は守るとのことで、コミュニティとしての結束を残したイベントとなるであろう。

手法ではなく組織への導入、実践にテーマを設定したこのUX STRATは日本のUX実践者にとってもより関与すべきカンファレンスであるといえるだろう。

UXの本質について

ユーザー体験(ユーザーエクスペリエンス/User Experience: UX)という言葉が広く聞かれるようになってきた。半ばバズワードのように、特にウェブデザインやマーケティングの記事などの中では、この言葉を見ない日はない。しかしながら、多くの場合、UXという言葉の真意や可能性を取り違えてしまっている。本稿では、いくつかの観点からUXの本質を考えてみる。

続きを読む