IAサミットの復活

毎年花見の季節にちょうど重なる、IAサミットが終わった。

去年、一昨年とUXデザイン寄りなところがあったが、今年はAbby the IAことAbby Covertら運営委員の意図が強く反映され、よりIAサミットらしいカンファレンスとなった印象を受けた。

カンファレンスは、例年通り3日間にわたり、3つのパラレルセッション+フレックストラックスという構成で進行。

特に各トラックにテーマは明記されていなかったが、Peter(Merholz)が彼のblogで指摘しているように、Track Bには、新しいIAの視点や立脚点、フレームワーク提示などのセッションが集まり、まさに「IAサミットでしか聞けない」が目白押しであり、僕個人にとっても大変示唆を得られるものであった(実際、ほぼTrack Bに出っぱなしであった)。

IA Summit 2014 プログラム
http://2014.iasummit.org/program/main-program/
All the Slides from IA Summit 2014
https://medium.com/information-architecture/6a4e6e0c22c5

個人的に面白かったのは、Stephen P. Andersonによる「From Paths to Sandboxes」と題された、情報システムを「Path型」「Sandbox型」「Repeat型」に類型化し、その中でも「Path型」と「Sandbox型」の主要なインタラクション型によって、既存のシステムやゲームなどを論じたセッション。これはアーキテクチャのパターンとしてもより詳細に論じる価値がある。

From Paths to Sandboxed | Stephen P. Anderson
http://www.slideshare.net/stephenpa/from-paths-to-sandboxes

また、Andy Fitzgerald, PhDによる、Responsive Information Architectureと題されたセッションは、昨年Dan Klynによって提示された、IAのOntology – Taxonomy – Choreographyの要素によって構成されるIAのモデルを拡張し、これをResponsive Web Designに倣ってデバイスフリーにするための試論を論じていた。ここでは、Taxonomy Gridと称する、Narrativeに対応させた流れを持った構造を定義する方法論によって、適応型のIAを実現する方法論を提示した。このセッションで面白かったのは、上記のOntology – Taxonomy – Choreographyモデルによって、「受け手」に与えるものを「クオリア Qualia」として扱っていたこと。本人とも会って話したが、「意味」や「感覚」を超えたところで「理解」を受けとめていることを表現するために、クオリアを用いたとのこと。このモデルは初めて見たが、言われるとなかなか説得力がある。

Responsive Information Architecture | Andy Fitzgerald, PhD
http://www.slideshare.net/andybywire/responsive-information-architectures

Understanding Information Architecture | The Understanding Group
http://understandinggroup.com/2014/01/understanding-information-architecture/

昨年実施された、Reframing IAワークショップは、今年はTeaching IAワークショップと、フレックストラックでのReframing + Teaching IAセッションとに再構成されての開催となった。

昨年のReframing IAセッションは書籍化され近日発刊される予定であるが、フレックストラックでの議論の中で一点気になったことがあった。それは、「情報アーキテクチャ – Information Architecture」の言葉の使い方が、対象物 – Objectとしての用法(=サイトストラクチャやオントロジーなどの成果)とSubjectiveな意味(=理解を実現するためのメカニズム自体)とで混同されていた点。厳密な定義は必要ないと思うが、議論の上ではなにを意味しているかを明示化する必要はあろう。

Teaching Information Architecture | The IA Institute
http://reframe-ia.org/

また、去年のKaren McGraneのクロージングに引き続き、大変ポジティブであったのが、Peter Morvilleによるクロージングキーノート。

IAサミットでは、毎年オープニングキーノートはゲストで、クロージングキーノートはコミュニティ中の人が講演を行っている。今年は15年目の節目となる年であったが、実はPeterは初のクロージング登壇。

IAをとりまく環境に触れながら、コミュニティのあり方、領域に分かれてしまうことの不幸とその不毛さ、IAという概念の不可知性など、いま改めてInformation Architectureを考える意義を問い返しながら、コミュニティ全体を力づけるスピーチであった。

スピーチの全文は公開されている。Information Architectを自認する人であれば、読んでおくべきであろう。

Information Architecture Summit Closing Plenary | Medium
https://medium.com/information-architecture/7ddf2ad4bc3

IA Summit 2014 Closing Plenary by Peter Morville
http://www.slideshare.net/morville/ia-summit-2014-closing-plenary

15年を向かえたIAサミットは明らかに生まれ変わっていた。数年前「くだらない定義(DTDT: Define the dumb thing)」に振り回され、UXデザインの興隆に脅かされることによって、コミュニティ全体がだんだん自信を失い、プログラムもコミュニティ自身の存在意義を問うような内省的なものとなっていっていた。また、職域を限定して仕事を進める米国のスタイルを反映して、Web情報アーキテクチャの設計の意味に自己を限定してしまっていた部分もあった。

こういった時代を経て、これからの社会のなかでのinformaticsそして、understandingsを担う分野としての自認と、議論の結果がいまのIA Summitを作り出しているといえるであろう。

もちろん、実験的なIDEAカンファレンスの開催を経て、World IA Dayをグローバルに成功させたことも間違いなくこの要因となっているであろう。

このIAサミットの復活をコミュニティのメンバーとして喜びたいと思う。

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