IA Summit 2015

情報アーキテクチャ(Information Architecture: IA)についての年に一度の会議 IA Summitが、ミネソタ州ミネアポリスにて開催された(IAS15と呼ばれている)。本年度のトピック、傾向などについて紹介しよう。

全体

今年で16回目と回数を重ね、また、サミットの成果がRosenfeld Mediaから出版されていることもあり、会も世界的に一定の認知を得ている(欧州圏では兄弟イベントのEuroIAが毎年開催)。筆者も参加回数が12回目となり、年に一回多くの知己達と近況報告を行うイベントとして生活のリズムに組み込まれている感がある。

00年代後半には、IAなのか?UXなのか?といった議論で、コミュニティのアイデンティティ危機が感じられた時期もあったが、一回りしてもともとの「理解のデザイン」の意義が高まり、またIoTなどの影響で「Webページ」ではなく、情報自体のタクソノミー(分類)、メタデータ的観点の、ある種「IAらしい」トピックが再注目を集めていることもあり、コミュニティとして健全に成長を続けている印象がある。

今回のサミットへの参加者も半数以上が初参加であった。数回目の参加で貴重なプレゼンテーション行っている参加者も多く、人材の流動性の意味でも健全さが感じられる。

会は、例年通りいくつかの基調講演(キーノート)および3+1トラックのパラレルセッションによって構成される3日間のカンファレンス日程と、2日間にわたって開催され希望者だけが取得する、半日もしくは終日のワークショップの合計5日間の日程。多くの参加者は3日間のカンファレンスだけの参加となる。

コンセントからは今年は5名が参加、インフォバーンのイノボリさんを始めとした他の日本からの参加者と連絡を取り合い、適度にセッションを分担して受講した。今年はスケジュールに若干の余裕があったが、それでも全部でセッションは60。パラレル(並行)セッションなので、すべてを受講はできないが、それでも3日間でかなりの情報量となる。

また、例年通り(?)今年もポスターセッションで発表を行った。プロジェクトプラニングのためのコミュニケーションツールを発表したが、課題の指摘に加え、「売って欲しい!」というフィードバックも多くいただき、たいへんな励みとなった。

以下、今年のカンファレンスのトピックについて所感を記す。

みんなのためのIA

カンファレンス前から、コミュニティにて話題になっていたが、これまで主としてWebの業界のものとされてきたIAを日常生活のためのものとしてとらえなおそうという動きが見られている。具体的なセッションとしてもオープニングキーノートを務めた元IA Institute代表のJorgeによる、「… for Everybody」と題されたセッションや、The Understading GroupのDan Klynと現在のIA Insitute代表のAbby Covertによるワークショップ「IA for Everbody」など、そのものずばりのセッションもみられた。ここ数年でみられる傾向であり、筆者もこの考え方に大きく賛同するものであり、IAコミュニティの今後の活動として着目していきたい。

… for Everybody: Jorge Arango
http://www.jarango.com/blog/2015/04/24/for-everybody/

IA for Everybody: Abby Covert & Dan Klyn
https://docs.google.com/presentation/d/1bFr053K5YrEwIEbO2NiH6xQzzHZDPNvjeQm4ewzmWHg/edit?pli=1#slide=id.p

タクソノミー、メタデータ、Linked Data

タクソノミー(分類学、分類そのもの)、メタデータなどは、もともと図書館情報学的な観点でのIAの専門領域の一つであるが、昨今の扱う情報量の増大傾向と、IoTなどに代表される「細切れのデータの活用」のためのフレームワークとして改めてIAが脚光を浴びている。

IAS15においても、メタデータの管理の考え方、タクソノミー設計におけるクリエイティビティの議論、「マイクロコンテンツ」と定義された断片的なコンテンツを統合する考え方、などこれからを感じさせるセッションが多く見られた。また、より実装寄りに具体的にどういったHTML記述方針によってメディアによらない柔軟性の高いソースを作れるか、といったセッションも見受けられた。

筆者が衝撃を受けたのは、BBCのPaul Rissenによる「Designing Webs: IA as a Creative Practice(『ウェブ』をデザインする:創造的な実務としてのIA)」と題されたセッション。英BBCは、もともと番組情報管理のための情報設計について早くから取り組みを行っており、これまでのIASにおいても素晴らしいセッションを行ってきた。ここでは、われわれは「Webサイト」ではなく、情報ネットワークとしての「ウェブ(WWWの原義となっている網のニュアンス)」をデザインすべきである、という視点で、実際のBBCでの分類系統のバリエーションを紹介しながら、創造的にこの「ウェブ」をデザインするための原則を提示した。

彼らの素晴らしいところは、IA、UIどちらの視点からも質の高いBBCのサイトを、こういった抽象度の高いオリジナルの視点で生み出しているところにある。まさに理論と実践が大変高い次元でバランスされており、日本でもこのレベルの仕事を実現したいと強く感じる。こういった取り組みに興味を持たれた方はぜひご連絡ください。

システム思考の影響

これもここ数年のIASで見られる傾向だが、システム思考(Systems Thinking)の影響も随所で見られた。ここでいうシステム思考とは、ひとことで言ってしまうと「静的な関係性でなく、大きな流れでものごとをとらえる」となる。2012年にはJohanna KollmannによってIAとシステム思考のについてのセッションが持たれていたが、昨年発刊されたPeter Morvilleの「Intertwingled」によるところが大きい。Peterは昨年のIASのクロージングキーノートにてIntertwingleと題するセッションを行い、その内容を昨年発刊した。ここでは、IAの考え方をこれからは対象物に対しての作業ではなく、対象をとりまく生態系(エコシステム)に対してのデザインとしてとらえていく考え方が必要になることを説いている。

今年は基調講演にハイパーテキストの父であり、Peter Morvilleの「Intertwigled」という言葉の引用元であるTed Nelsonも登場し、この「複雑なものをありのまま受け入れる」システム思考的なアプローチを基調に置こうとする考え方は年々一般化しつつあるように考えられた。

ところで、このシステム思考の考え方は、欧米的なデカルト主義的アプローチへのアンチテーゼとしてとらえられる。これは実はわれわれ日本人にとってみると、常に関係性でものごとをとらえ、物事に対して絶対的な順位付けや評価をすることを好まないという点で文化への親和性が高い。

プロジェクトを生産的に進めるためには、デカルト主義的にものごとを切り分けて遂行することが効果的であることは否めない。そして、こういった考え方をもとにIAやUXのプロセスは発展してきた。日本のIAやUXの業界ではいまだにこのデカルト主義的なアプローチとしてのIAやUXデザインプロセスが理解されていない側面がありつつ、さらにそのアンチテーゼが普及しつつあるという点で、周回遅れ的にアジャイルやLeanアプローチが普及したような状況になることも考えられる。

閑話休題、システム思考の考え方は、筆者がサービスデザインアプローチなどで用いる「エコシステムのデザイン」としてとらえられる。Webサイトという対象物をデザインするのではなく、そこには顧客のみならず運用を担当する人や、さらにその教育を行う人、商流で関わる人もいる。また、サイト自体もそれ単独で存在しているわけではなく、市場のなかでの相互補完的に存在している。そこまで視野を広げた上で、どういった影響を持って行くのか、だれと関係していくのかを意識しながらデザインを行うという考え方は、これからますます必要とされていくといえるだろう。

理解の新しい枠組み – Marsha Havertyのモデル

筆者も含め、今回のカンファレンスで最も話題を呼び、IAコミュニティに波乱を巻き起こしたのが、Marsha HavertyによるWhat We Mean by Meaningと題されたセッション。正直このセッションだけで今回のカンファレンスに参加したかいがあるといってもいいくらいのインパクトがあり、あまりの反響のために急遽会期中に再演が実施されたほどである。

プレゼンテーションのスライド

内容は、IAが取り扱う「理解」について、情報を知覚的(perceptual) – 言語的(linguistic)の2軸でとらえる「情報の相空間モデル(The Phase-Space of Information)」を提案し、このモデルにもとづいて、「意味」について考えるというもの。これまでIAのコミュニティでは、「意味」をどうやって作っていくかについての検討がなされてきていた。数年前に、The Understanding GroupのDan KlynによるOntology – Taxonomi – Choreology というモデルが提示され、この考え方をもとにいかに意味を作っていくかという試論が提示されてきていた。これに今回のMarshaのアプローチは、前提としての枠組みを導入した位置づけとなり、これからのIAコミュニティでの議論においては、基軸となっていくことが考えられる。

初日の2つめのセッションであったこともあり、会期中会場内では随所でこのモデルについての議論が行われ、いくつかのセッションでは、セッション内でのこのMarshaのモデルとの対比を行うような内容も見られた。

筆者も、コミュニティ内での理論構築を担っている前述のDan Klynを始めとして、Pervasive IAの著者としても知られるAndrea Resminiなどとも議論を行ったが、両者からも大変な評価を得ており、今後のさらに発展することが期待される。

直接スピーカーのMarshaとも話して、考え方を日本でも紹介したい旨は伝えてあるので、本資料の紹介、および彼女を交えてのディスカッションイベントなどを企画したいと考えている。

IASそのもののありかた

ちょっとメタ的な観点でIASを見てみると、相変わらず広告業界との距離は感じるが、社会に求められることと、自分達のありたい姿とを議論するためのコミュニティイベントとして、IASはバランスがとれていると感じる。

学会とは異なり、あくまでプラクティカルな課題について扱っているポジションが作用していると考えられるが、毎年新しい枠組みが多くのプレゼンターから提示され、それについて議論ができる場というものは、発展し続ける業界に身を置くものとして自分をアップデートできるだけでなく、インスパイアされることも多く、引き続き貴重な場となりそうだ。

また、IASの発表を元に、Louis RosenfeldがプロデュースしてRosenfeld Mediaにて書籍化する、というパターンが定着してきている。これは、コミュニティをコンテンツを生み出す場として機能させるエコシステムの好例として考えてよいだろう。

冒頭にも書いたが、IA、UX、Content Strategy、タクソノミストといった用語は一般化しており、そこに大きな混乱はない。もちろんコミュニティそのものの考え方を議論したり、視点を提示するようなセッションは相変わらず多いが(Understanding Bee、JJGとChristina Wodtkeのセッション、A Tale of Twin Cities)、この自己批評の精神は必要なものであり、バランス的にも悪くないと感じられる。

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