IAS16_Day2

IAサミット二日目。選んだセッションにもよっているが、わりと「IAサミットならでは」な日になった。今年のちなみにセッション形式は、3本のセッションが並列で進行し、参加者は好きなものを選ぶことができる。3本のトラックには、明示的に名前がついていることもあれば、今年のように特にわかれていないこともある。別れている年は、たとえば「理論・探索」「実践・事例」「コミュニティ・組織」といった感じ。
今年は別れていなかったので、どこに参加したらよいかけっこう迷った。
また、この3本に加えて、Flex Trackという自由なトラックがあったりしていたのだが、それも今年はなかった。Flex Trackはけっこう惜しむ声が多かった。

The Pop out Effect: How to Improve Choice Through Information Architecture / Luca Rosati, Stefano Bussolon

イタリアから初渡米というStefano Bussolon氏による、選択アーキテクチャについての話。行動経済学の知見に基づいて、いかに人の選択時の認知コストを下げることができるか、ということについて検討を行った。
情報選択時の過負荷(Choice Overload)の結果として、行動、認知、感情の3つの方向性での問題があるとしたうえ、さらに文脈的要因(Contextual Factor)として時間、責任、要素数(number of attributes)があると分析した。特にその要素(attribute)の組み合わせがによって、魅力(Attractiveness)、選択肢(Dominant Option)、補完性(Complementarity)が変化していくことを示した。そのうえで、よいIAは選択のコスト(cost of choice)を下げると指摘した。また、初心者とエキスパートで選択肢の数に対しての許容度が異なる(noviceは選択肢が少ない方がよい、expertは多い方がよい)ということをふまえて、「The Popout effect」というユーザーの認知負担を下げるための方策を提示した。具体的には、情報のかたまり(chunk)とテンプレート化により、ユーザーのタスク分割を助けて、負担を下げるという方法。
概念的にはこれから活用されていく分野であるし、逆に行動経済学の知見を明示的に活かしたIAの方法論がこれまであまり議論されていなかったのが不思議なくらいであるが、会場からの注目も高くさまざまな質問が行われていた。
Bussolon氏と直接も議論を行ったが、僕自身の考えているモデルとも比較してみたい。

The Inviting Dark: Thinking About Information Architecture in Physical Space / Jason Alderman

物理的な環境を想定した場合のIAのモデル化の検討。Alderman氏は、この課題に、
Senses < Circulation < Transitions < Maintenance < Story
というモデルを提示した。Senseは人の知覚、Circulationはそれらをとりまく環境で、いかに人の移動を促進させられるかを論点としている。その結果としてメンタルモデルの遷移(Transition)が促される。さらにそれらは、モジュラー(modular)、修復性(repairable)、持続性(sustainable)の側面でメンテナンス(Maintenance)可能でなければならず、それらはストーリー(Story)によって統合される、という構成。Christopher Alexanderにも言及していたが、どちらかというとStewart BrandのPace Layerモデルに近い(がちょっと違う)。物理環境を含んだ、情報空間を扱ったモデルとして、IoTやO2Oの情報設計を考える際に役に立ちそうである。

IA for Personalization: Five Steps Toward Building Thoughtful Targeted Experiences / Colin Eagan

パーソナライズするときのIAについて述べた非常にかわりやすいプレゼンテーション。
プレゼンテーションでは、まずターゲティング(targeted)をデータに基づくカスタマイズと定義した上で、現状さまざまなターゲティングが行われ、またそれらが必ずしも成果を上げていないことを指摘した。また、パーソナライズ・ターゲティングを行うソリューションとして、Adobe Experience Managerに代表されるようなExperience Management System(EMS)によるものと、とサードパーティによる最適化システム(optimization system)によるよるものに整理した。
さらに、そこから4つのステップでパーソナライゼーションを考えていくアプローチを提示。ステップ1は「戦略」で、そもそもなんでパーソナライズをやるのか、メリットデメリットの整理を行う。ステップ2は「Audience」。ターゲットをセグメンテーション/アルゴリズム、行動/デモグラフィックの面から分類する。データの利用においてはExplict(明示的、名前等のプロフィール)/Implicit(暗黙的、蓄積されたデータ)の視点で整理を行っているのが特徴的であった。これをもとにステップ3で設計を行う(Rules & Campaign)。ここでは、IA Airlinesという架空の航空会社を想定して例示が行われた。提示コンテンツのパターンとしては「ターゲットコンテンツモデル(Targeted Content Model)」というモデルが提示された。このモデルは、
– 警告(Alert):緊急度の高い情報の提供、ゲートの変更など
– 利便(Make easier):使いこなしの利便を提供、フライト情報へのショートカットなど
– 販促(Cross sell):ビジネス、ビジネスクラスへのアップグレード情報など
– 役立ち(Enrich):ユーザーのためになる情報、旅行準備のTipsなど
という4種類で構成され、サイトなどでの実装では、ターゲッティングゾーンチャート(Targeting zone chart)というエリア定義を行う。また、同時にコンテンツモデルも用意しておく。ステップ4はそれらのテスト、改善となる。
と、かなり具体的に、かつ体系的にまとめられており、サイトのパーソナライゼーションを考える際のフレームワークとして使えそう。企業サイトのパーソナライズを考えている人は、スライドや動画が公開されたら、状況の整理のためにも一度見ることをおすすめする。

Ontology Dojo / Ren Pope

通常の45分枠の倍の時間を使った、IA文脈における現代的な”実用的”オントロジーのレクチャー。まさに、IAサミットならではのセッション。オントロジーの基本的な概念の説明に始まり、オントロジーとしての定義と、IA/UX(Webデザインでの用法)、コンピューターサイエンス、図書館科学などでの用語の違いなどを比較した。また、オントロジーの基本要素である、ドメイン(Domains)、オブジェクト(Objects)、述語・述部(Predictions)、属性(Attributes)、クラス(Class)について、それぞれ解説を行った。特にPredictionについては、サイト設計などでもみられるさまざまな関係性を具体的に例示しながら解説したため、たいへんわかりやすかった。
「いまさら聞けないオントロジー」的なノリで、全体像から話してくれているので、なじみがない人にもわかりやすいだろう。スライドが公開されているので、IAな人はぜひ一読を。
余談であるが、サミットの会期中張り出されているJob Board(求人票)には、Taxonomist(分類士?)やTaxonomy Manager(分類マネージャ?)などの求人が複数みられた。求人全体の数からすると結構な比率で見られたと言ってもよい。日本ではまだTaxonomistの求人なんてないように思うが、特にECや、CtoCマッチングサービスなどでは、膨大なアイテムから情報を見つけ出すための分類がより重要になっているということだろう。

How Well Can Navigation Research with Different Design Artefacts Predict Final Site Performance? / David Juhlin

情報設計タスクの途中成果物:デザインカンプ、インタラクティブプロトタイプ、ワイヤーフレームやIAツリーと呼ばれるコンテンツ目録、を使ってユーザーテストを行い、最終的な本番のサイトとパフォーマンスを比較したリサーチ結果。
当然ながら、忠実度が上がれば(High Fidelity)その成果物でのテスト結果もリアルサイトに近くなるという結果が得られていたが、もちろんLo-Fiなものでも評価を行うことは可能である。その場合の「成果」は当然サイトで得られる最終成果とは質的に異なる外れあり、本調査のように量的に比較をしている(ように見受けられた)ものでは測りきれないものであろう。

Keynote / Léonie Watson

クロージングのキーノートは全盲のアクセシビリティ専門家であるLéonie Watson氏によるアクセシビリティの思想についての啓蒙を行う話。映画のシーンをつないで台詞を引用しながら、アクセシビリティの重要性や陥りがちな状況についてを話していった。今回の全体テーマ、Broader Panoramaを象徴するセッション。1時間に及ぶ講演だったが、次々と切り替えられるスライドに、こう言ってはなんだがあたかも見えているようにトークが繰り広げられた。途中スライドを戻すシーンもあったりしたが、あれば手元で点字ディスプレイでもあったりするのかしら?
また、余談だが、この日は、この基調講演が5時頃に終わると各自夕食の時間となり、その後8時からカラオケ(発音的にはカラオキーとなる)ナイトが繰り広げられた。Watson氏はそこでもステージに上り歌を披露していた。ちなみに、カラオケナイトの裏では、ゲームナイトが繰り広げられ約50種類集められたさまざまなカードゲームやボードゲームをみんなでプレイしていた。これもIAサミットなれでは感が高い。何年か前のこのゲームナイトで出会ったカードゲーム「SET」はいまでは我が家の子供たちも得意なゲーム。

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