日別アーカイブ: 2025/05/06

Information Architecture Conference 2025 IAC25

Information Architecture Conference 2025 #IAC25j 始まりました。今年はUSフィラデルフィア、会場は歴史的なアーチストリート・ミーティングハウス(Arch Street Friends Meeting House)。キーノートなはコーネル大学のClaire Wardle氏による情報生態系の課題について。「自分で調べる(Do Your Own Research)」という姿勢について論じました。

IA Conference #IAC25j 初日終了。これからまとめは書きますが、なかなか初日は充実したプログラムでした。でもって、ポスター発表も無事終了。昨年のHCDフォーラム、今年のWIAD Tokyoで話した「人に対しての法とビジネスの非対称性」の内容をバージョンアップさせたものですが、IAコミュニティでもかなり賛同を得られました。よかった〜

これからIA Conference 2025 #IAC25j 二日目です。初日を終えて、今年のIAカンファレンスについてのまずは全体観です。

IAC25初日トピック

今年のカンファレンスは、フィラデルフィアのアークストリートミーティングハウスというところで開催されました。ホテルから歩いて20分ぐらいで若干距離はありますが、200年もたつ歴史的な建造物で、去年のシアトルパブリックライブラリーで行ったものも大変良かったですが、こういう場所に趣があるというのは結構楽しいと思いました。でも椅子が若干座りにくい感じがあって、フルデーのカンファレンスをやるには、正直言うとテーブルとかも欲しいなとも思ったりもしました。

フィラデルフィアの街はちょっとしか歩いていませんが、さすがアメリカ建国の記念的な街だけあって、そういったモニュメントや建物がいっぱい建っています。街並みもどことなくヨーロッパ風の感じがして、他のアメリカの都市とは違う印象を受けました。

さて、カンファレンスですが今年は全体のテーマはthe bridge between humans and technologyというもので当然ながらAIを強く意識したものになっていますが、直接AI云々というよりは、そういった社会全体を見渡すものになっているという印象を受けました。

オープニングキーノートとしては、コーネル大学のClaire Wardleさんで、偽情報やユーザーユーザー。生成コンテンツによる問題についての研究をされている方です。テーマとしては、現在の現代の情報エコシステム情報生態系というものをどのようにナビゲートして、どのように対処していくかということについてのお話でした。現在の情報環境というものが分断化されて汚染されていて、信頼がなくなっているということをまず指摘をした上で、さらに、高齢者や一般市民が詐欺や偽情報の被害に遭いやすいということなんかも述べていました。このことはダークパターンの議論にもつながるものになります。

で、本物の情報もディープフェイクだというふうに言われたりとか、あるいは偽情報を著名人が利用するケースなんかも見られるということを指摘をしていました。で、一般的な情報というものが、権威:政府、大学、メディアといったところから一方的に。送られてくるものに対して、陰謀論やええネットの中で勝手なことをいろいろ主張する文化というところは、参加型で共感型でストーリー重視であるという特徴があるという対比を示しました。

陰謀論コミュニティの人たちは「自分も調査に参加している」、「自分も寄与している」という感覚を強く持っているという特徴がある。そのことから#DYOR(Do Your Own Research:自分で調べる)という姿勢というものが広がって、そしてそれが陰謀論を広めていくことにつながっているという指摘を行いました。これに対しての具体的なアクションとして、オンラインオフラインでそれぞれがコミュニティを作るということの重要性であること、メディアリテラシー教育の重要性、あるいは意見が違う人との対話、そういったことの重要性を話しました。彼女の話はディスカッションが大変盛り上がり会場からも多くの質問や意見が出て、議論がなされました。これは今のアメリカの状況を反映している議論というふうにも言えると思います。

初日の各セッションのまとめ:

Information Quality is Information Ethics – Gary Carlson
データライフサイクルの観点からの情報倫理をどうすべきか、のセッション。各フェーズでのノイズやエントロピーの影響、データの適合性やアクセス性、保存形式やセキュリティ、利用時の適切な文脈提供など、具体的な課題が挙げられました。データフェミニズムの議論を彷彿とさせました。

Strategic Information Architecture – Austin Govella
インフォメーションアーキテクトがストラテジックデザインを行っていくためのステップを示しました。「システム中心のデザイン(system-dcentric design)」を主張し、Dan Hill氏の庭師のメタファーを照会しながら、自分の庭を手入れする(Tend Your Own Garden)、マクガフィンを見つける(Find a MacGuffin)、トロイの木馬を活用する(Use Trojan Horses)の3点を述べ、また、IAの「スケール」(プラットフォーム、サイト、インターフェイス、インタラクション)と「マテリアル」(コンテンツ、ストラクチャ、ラベル、ナビゲーション)の掛け合わせでの16領域での成果物や課題を示し、それをどう活用するかを示しました。これはふむふむなるほど感はありました。

Get Your ROI-Act Together! – Nate Davis
インフォメーションアーキテクトと他のステイクホルダーの関係を俯瞰し、ROIをどのように改善するかを述べてました。コンセプトベースライン(Concept Baseline)の共有が重要というのがメインの主張。

Helping Ideas Emerge out of Complexity: an IA Conversation – Duane Degler, Marsha Haverty
マーシャさん!ComplicatedとComplexという二つの「複雑な」状況の対比を示し、(先が見えない)Coplexな状況ではよりナラティブによる創発が重要になってくるということを述べています。ナラティブの自己解釈を特に述べていました。ナラティブリサーチでもっとこの考えを取り入れていきたいですね。

Tradeoffs: Decision-making in Information Architecture – Dan Brown
IAにおいて(には限りませんが)、意思決定には常にトレードオフが発生することを述べ、意思決定の影響を評価するための4つの観点(Effort, Coverage, Pressure, Friction)を紹介しました。

Less Content. More Strategy. – Danielle Cooley
「Less content, more strategy(コンテンツを減らし、戦略を強化する)」をテーマに、単なるコンテンツ量産ではなく、ユーザー体験、ビジネスゴール、環境負荷の観点から本当に価値のあるコンテンツを厳選するアプローチが議論されました。

Say Cheese! From Holes to Wholes in Information Architecture – Marcela Gonzalez
航空工学からUXデザインへ転身したゴンザレス氏が、事故のスイスチーズモデルを紹介し、航空業界での安全設計の考え方を、デジタルシステムやUXデザインに活かす方法を探りました。おもしろかったです。

Navigating the New Real: Embodiment and Interaction in Blended Spaces – Eugenia Bertulis, Dechen Nagi, Angelina Rudakova, Andrea Resmini
4人のスピーカーによる、身体二元論を離れたフレームワークとその実践ワークショップの紹介。ダマシオのSomatic Markersの話など。これはいろいろ言いたいこともあるので、別にまとめます。

Designing for Empathy in AI Chatbots: Using Visual Cues and Conversational Tone to Enhance User Experience – Colleen Brand
共感(Empathy)を模倣するAIチャットボットについて。映画『her/世界でひとつの彼女』の例を挙げ、AIがユーザーに「理解されている」と感じさせることの重要性を示しつつ、実際にはAIは感情を持たず、設計によってそのような体験を生み出すことができる点を解説しました。

IA Conference 2025 二日目終了。所感:

昨日(初日)に比べてあっという間だった。セッション密度が若干低いのか、あるいはポスターセッションが控えていなかったので気が楽だったのか。今日の総括は以下の感じ:

  • ナラティブへの言及、Dan Hillのガーデニングへの言及が多かった。既存のシステマティックなアプローチの限界への反動か。
  • AI導入について、フェーズのばらつきを考慮に入れないと混乱するなと思った。いまいまの仕組みに導入する話か、ちょっと先の導入を想定したモデルの話かでいろいろ変わってくる。
  • 1セッション30分(20分トーク+10分Q&A)、シングルトラック、は聞く分には楽でいいが、フレームワークの紹介などだと若干短い。かといって以前の40分くらいのセッションがパラレルなのとどっちがいいか悩ましい。
  • タクソノミー、等の近いトピックが続いているのはなんとなくの頭でのグルーピングができてよいですね。

Before AI, there’s IA: Redesigning the Northwestern Libraries Website to Reshape Its Content Architecture and Navigation and Scale with Future Services and Technology – Frank Sweis, Cory Slowik
ノースウェスタン大学図書館のウェブサイトの情報アーキテクチャ(IA)再設計プロジェクトについて。AIチャットボット導入は見送られたが、AIに理解してもらうためのIA(Better IA for AI)は意識された。ジェニー・オデルの「何もしない」を最初に引用したのがおもしろかった。

Sexy Versus Scrappy Tech: Using IA and AI to Help Real People Do Everyday Things – Carrianne Tuckley
「セクシーな技術」と「スクラッピー(臨機応変・実用的)な技術」の違いを踏まえ、課題解決に向けた人工知能(AI)の現実的かつ実践的な応用事例について議論。ウェブ領域でのさまざまなAI活用を紹介しながら、AIが「万能な解決策」や「話題性のある最新技術(セクシー・テック)」として求められる一方で、現場の実際の課題解決には「地味だが役立つツール(スクラッピー・テック)」としての活用が重要であることが強調された。

Narrative-Driven IA: Designing Connections To Enhance User Experiences – Eric Harrison Saltz
たぶん今年盛り上がったセッション上位に入るやつ。IAにおいてナラティブを活用する「ナラティブドリブンデザイン」のフレームワークを紹介した。ユーザーが実際に遭遇する摩擦や混乱をストーリーという切り口で浮かび上がらせ、その解決策を創出する方法を提案。ゴールデンサークルやストーリーサークルなどの既存のフレームワークを応用しながら、インベスト→トリガー→アクション→報酬(リワード)という4象限からなる枠組みで、UXを考えていきそこからラベルなどを設計していくアプローチ。ツールも配ってくれました。

Taxonomy Testing: How to Prove that It Will Work – Joseph Busch
タクソノミーのテスト方法について。タクソノミーが実際の利用環境でどの程度機能するかを評価するための、定量的および定性的なアプローチ。ユーザビリティテスト、ヒューリスティック評価、カードソート、シナリオテストなどを通じた検証プロセスが詳しく解説された。

Orchestrating the Mundane: Deskilling Language Models for Practical Outcomes – Andy Fitzgerald
例えばリソースのタグ付け、分類スキームの適合性検証など、「人手でやるには多すぎ、機械学習を使うには小規模な“中規模システム”の複雑さ」に焦点をあてて、こういった日常的・定常的なタスク(Laundry and Dishes)をAIにやってもらうため、言語モデルのデ・スキリング(De-skiling)に着目し、その実践方法を初回した。これはモデルの役割を明確にし、タスクの複雑さに応じてプロセスを定義するもので、実践によるケーススタディも紹介された。これはコンセントでもやってみようっと。

No Conspiracies Here! Clear and Transparent Taxonomy Foundations – Ahren E. Lehnert
ナイキのプリンシパル・タクソノミストのLehnert氏によるオントロジーとタクソノミーを組み合わせたセマンティックモデルの構築と運用について述べられた。情報の透明性と複雑性のバランスをとり、適切なビジュアライゼーションを行い、UI設計までを行う事例などを紹介した。

Making IA Visible at Scale: Representing Information Architecture in Your Design System – Erin White, Sara Sterkenburg
米国退役軍人局(Department of Veterans Affairs, VA)のIA2名によるVA.govのデザインシステムについての紹介。デザインシステムの活用とそのガバナンスの重要性とを解説した。サイトのIAはもとよりデザインシステム自体のIAについても議論を行い、またその運用についてはガーデニングのように(less rigid, more flexible)する方針を示した。

From Hunting to Farming: Evolving Information Architecture for Modern Decision-Making – Jason Prunty
「Farming(耕作)」というメタファーを中心に、これからの知識創造モデルについて語った。知識創造のプロセスを「シード(種)」「土壌(soil)」「育成(ナーチャリング)」という要素として例え、意思決定や発想にどのように寄与するかを示した。また、これまでの「知識」および「知識管理」が情報の絞り込みや検索に重きを置いていたのに対して、「知の共創」「意味づけ」「リフレクション」がより重要になることを主張した。

Building an Inclusive Research Practice – Lori Baker
インクルーシブなリサーチ実践事例を通じて、調査手法の透明性、参加者の多様性確保、そしてその成果を社内外に効果的に伝えることの重要性を述べた。業界でこのプロセスを継続的に改善し、業界全体でのベストプラクティスを共有・標準化することで、より良いプロダクトやサービスを生み出せると提言している。

Designing Safe, Usable Medical Devices through Inclusive User Research – Kat Jayne
医療業界におけるインクルーシブであることの重要性を述べ、「安全性」「使いやすさ」「インクルーシブさ」の三本柱で考えていくというアプローチを紹介した。高齢者向けスマートウォッチ、鼻に装着する器具などでのこの三本柱でのデザイン実施アプローチからモデルの妥当性を述べた。

IAC25 3日目ここまでの総括

  • 全体的にデフォルトでAIを踏まえた議論になっている。細かいところはともかく、AIのUIデザイン、デジタルプロダクトデザインの議論はけっこう進んでいる感覚を感じた。
  • システマティックなアプローチ(要素分解)への限界と、そこからのシステミックなアプローチ(包括的な議論)への移行は随所に見られる。Dan Hillの「アーキテクトではなくガーデニング」もしかり、ナラティブの話もしかり。
  • 特にナラティブはAI普及もあってか随所で見られた。ストーリーテリングはIA界隈でも一時期流行ったが、また来るか?今度は雰囲気でなく、よりきちんとした形で取り込みたい。
  • AI時代にあらためてタクソノミーが再発見されている印象がある。- いまだに多くの人がIA=ワイヤーフレームとサイトマップ、ということを話しているのが耳に入ったが、そういうものなのか?
  • インクルーシブネスも前提になってきている。

3日目個別セッション

Reimagining Government Services and Systems: How Service Design, Information Architecture, and Accessibility Drive User-Centered Transformation – Vincenzo Centinaro
シカゴのDesignitでリードサービスデザイナーを氏の講演。Designitでここ数年提案しているDo No Harmのフレームワーク。ダークパターン防止も含めデザインの社会的責任を感じさせる。

Content Observability: Building Effective Feedback and Decision-making Loops – Jeff Eaton, Karen McGraneEx-RazorfishのKaren女史の久々のIAC登壇。コンテンツ効果の「観測可能性(observability)」概念の提案。コンテンツ戦略においてのROIを図りやすくすためのobservabilityのためにcomposition, quality, status, effectivenessの4つの要素で管理していく枠組みを例と共に紹介した。これも実用性が高い内容。しかし相変わらずのKaren節。

Clashing Classification: Negotiation and Diplomacy in the Design and Governance of Information – Dana Bublitz
日本のIA業務遂行でもよく問題なる(そしてそっちばっかり注目される)部門間調整の話。情報分類や他のガバナンス要素においての対立や交渉、合意形成のためのレトリック(修辞)の活用:ロゴス(論理的な説明)、エトス(信頼性やキャラクターの訴求)、パトス(感情への訴え)をバランスすることを述べた。MSでの実例なども。

Helping Humans Do Information Architecture – Emily Claflin
人がIA業務を行う際の(専門性ではない部分での)支援について。混乱 (Confusion)、不安 (Anxiety)、怒り (Anger)、無関心 (Apathy)という4領域をどのように解消していくか、という話。これも日本でよく問題になる論点。

Architecting Trust: Foundational Practices for Human-Centered AI – Danielle Miller
人間中心のデジタル戦略とAIの責任ある利用について。具体的には「好奇心」「協働」「包摂性」という3つの要素に基づき、AI活用の論点出しと事例紹介、その際の倫理的問題、環境的問題などを提示。「1回のChatGPTクエリで約16オンスの水が消費される」ことをどう捉えるか。

Fuel, Friction, and Finding your Way: Adventures in Designing Healthcare Navigation – Kim Mats Mats
ウェブプロジェクトでの組織内のフリクション(摩擦)への対処、人を巻き込む方法論。Kaiser Permanenteでのナビゲーション改善プロジェクトを事例として、組織内フリクション改善のため、慣性、労力、感情、反発(リアクタンス)という4つのカテゴリから方策を提示。

Closing Keynote: What If People Weren’t the Product? Building a More Human Web – David Dylan Thomas
Design for Cognitive Biasの著者である氏のクロージング。もの中心の社会から人中心の社会に移行するにあたり、この移行における私たちの役割は何なのか、を問う。デジタル世界において自己が商品化され、オンライン上のパーソナライズが市場主導で設計される問題点を見直し、人々の価値や連帯、持続可能性を重視するデザインの実現が必要と説く。現代のパーソナライズは、一方では利用者の体験を豊かにするが、同時に自己認識と社会全体の価値観を「商品化」するリスクを内包しているというのはその通り。ハンズオンのレクチャーではなくてキーノートなので、全文あらためて聞き直したい。全体総括はまた次回。あと2時間くらいで羽田着きます。